1.コロナ禍のもとでの状況変化

 はじめに、前回の提言発表を行った2021年3月以降の社会状況の変化を振り返る。

1-1 東京一極集中傾向の緩和 -地方定住・郊外化の定着-

(東京圏への転入超過の沈静化)

 コロナ禍発生後の国土構造及び地域社会における大きな変化は、1990年代後半から継続していた人口の東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)への転入超過傾向が大幅に減速したことである。東京圏への集中の減速は継続しており、これに伴い地方定住や、東京圏における郊外居住が定着することとなった。

 総務省が公表した住民基本台帳に基づく人口移動報告によって、東京圏の転入超過数を12ヵ月後方移動平均でみると、2019年までは増加傾向を示していたが、2000年3月から急速に減少に転じ、2021年4月からは横ばいとなっている。毎月の転入超過数は2017年から2019年までは毎月プラスとなっていたが、2020年からは転出超過の月も生じるようになった。なかでも東京都区部は2020年、2021年の減少傾向が著しく、3月4月頃を除くと減少となっていた。また、郊外部の埼玉県、千葉県、神奈川県は転入者数がほぼ横ばいであった。

 2022年になって、東京都特別区部の流出傾向が少しおさまってきているが、就学・就業者が多い3月4月を除くとほぼ均衡している状況である。一方で、後述するように地方圏への移住に対する関心が高まっており、就業形態や事業所の移転等の変化が生じている。新型コロナの感染症法上の位置づけが見直され、ウィズコロナに向けた生活行動の変化が見込まれる中で、今後の人口動向がどのように推移するか、引き続き注目される。

 

(若者を中心とする地方移住に対する関心の高まり)

 一方、東京圏から地方への移住については、若者を中心に関心が高まっているとの調査結果がある。

 内閣府がコロナ禍発生以降、継続的に実施している「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によれば、地方への移住に関心があるという回答が2019年12月以降、増加傾向を示しており、2022年6月時点では24.2%に達している。特に、20歳代は地方移住に対する関心が高く、2022年6月時点では45.2%を占めている。

1-2 産業活動と就業形態の見直しの拡大

(就業形態の変化)

 東京への人口流入が減少し、若者が地方居住に関心を示すようになった大きな要因として、就業形態の変化をあげることができる。コロナ禍を契機として、テレワーク利用の拡大が進行し、加えて都心部におけるオフィスに対する企業の考え方が変化をみせはじめた。

 コロナ禍発生直後に注目された事例として、電通の本社売却や、富士通のオフィス出社比率の削減及び就業規則見直し、パソナの淡路島への本社移転等等があげられるが、この傾向は、その後も着実に広がりをみせている。

 特に、NTTグループは2021年9月28日に、分散型ネットワーク社会に対応した「新たな経営スタイル」を発表し、社員の働き方はリモートワークを基本とし、働き方を自由に選択・設計可能とすることでワークインライフ(健康経営)を推進する方向性を示した。2022年6月24日にはその考え方を一歩進め、日本全国どこからでもリモートワークにより働くことが可能な組織をリモートスタンダード組織とし、新しい就業制度を導入すると公表した。

 新たな就業制度は、全社員を対象として勤務場所を原則自宅にするという革新的な考え方に立つものである。

  • 勤務場所は「社員の自宅」とする(会社への通勤圏に居住する必要は無し)
  • リモートワークと出社のハイブリッドワークを前提(出社時の交通費は支給)
  • 社員本人の希望や業務内容に応じ、個人単位での適用や適用除外も可能

 就業制度の見直しはNTTグループにとどまらない。例えば、ヤフーは2022年4月1日にリモートワーク制度「どこでもオフィス」を改定し、居住地・通勤手段の制限を撤廃した。日本国内であればどこにでも住むことができ、特急や飛行機など好きな移動手段での通勤を可能とするなど、同様の取組が広まりつつある。また、大企業ほどではないが、中小企業でもこうした動きが確実に進行している。

 

(本社機能の脱首都圏、複数本社化)

 パソナの淡路島移転をはじめとする企業の本社移転も継続、拡大している。

 帝国データバンクの首都圏・本社移転動向調査によれば、2022 年 1-6 月間に首都圏から地方へ本社を移転した企業数は 168 社に上り、企業本社の首都圏外への転出の動きが加速している。他方、同期間における地方から首都圏への転入企業は 124 社にとどまり、過去 10 年で最少となった。この結果、2022 年 1-6 月における首都圏への本社移転動向は、転出企業が転入企業を 44 社上回る「転出超過」となり、前年同時期(14 社)に比べて大幅に増加した。移転先の都道府県数が昨年の31件から37件へと増加するなど、移転先がより遠方・広範囲へと広がりをみせている。

 また、総務省が実施した地方公共団体が誘致、または開設にあたって関与した企業のサテライトオフィスの開設状況の調査結果によれば、2021年度の開設数は505か所と前年度263件から倍増している。都道府県別にみると、北海道110箇所、新潟県95箇所、岐阜県89か所と続いている。立地先は、人口規模が大きい都市だけでなく、中小都市、町村部にも広がっている。

 一時的な対応ではなく、オフィス立地や就業制度の見直しが広がっていることから、本社等の業務機能については、今後も東京からの分散が拡大、定着する可能性が高いと考えられる。

1-3 自宅周辺における生活行動の拡大

(東京圏を中心とするテレワークの普及・定着)

 3年に及ぶコロナ禍のもと、生活行動も大きく変化した。就業・居住の面では、就業形態の見直しが進み、オフィスワーカーの場合、週に数日のテレワークは当たり前となった。テレワークの導入状況の推移に関する国土交通省の調査によれば、コロナ禍発生後に2019年の14.8%から増加し2021年には27.0%となっている。特に首都圏では4割以上と広く普及していることがデータからも窺われる 。

 またテレワークを行いたい場所としては自宅が8割以上を占めており、テレワークの普及が自宅周辺で就業する人口の増加につながったと考えられる。

 一方で、テレワークの普及状況は職種によって差があることにも留意する必要がある。テレワークの実施状況を職種種別にみると、「研究職」64.1%、「営業」51.6%、「管理職」51.1%、「専門・技術職(技術職)」49.8%が相対的に高いのに対して、「サービス」「販売」「保安、農林漁業、生産工程・輸送・機械運転・建設・採掘・運搬・清掃・包装等従事者」は10%未満と低く、現場系の職種はテレワークになじまないことが明確になった。

(ネット消費の拡大)

 家計調査によれば、ネットショッピングを利用する世帯の割合は、コロナ禍のもとで増加が顕著となり、2020年5月には利用世帯の割合が初めて5割を超えた。その後は2021年、2022年ともほぼ同様の推移をみせており、5割超程度で安定したと考えられる。

 一方支出額は、増加傾向にあり、2022年10月度における1世帯当たりのネットショッピングの月間支出額は平均2万397円/世帯となっている(2021年は19,247円/世帯)。

(外出抑制意識の低下)

 コロナ禍のもとで三密回避が推進され、生活者の行動いったん大きく抑制されたが、最近になって行意識の変化がみられる。国土交通省が実施した生活行動調査によって、目的別に行動を抑制しようとする意識をみると、目的全体にわたって抑制意識が低下していることがわかる。

 ただし、特に大人数が集まるイベント、友人や知人との交際・会食については、回答率は低下しているものの、依然として抑制しているという回答が7割近い。

(選択的な行動範囲の回復)

 コロナ禍に伴う実際の行動範囲について確認すると、すべての目的でコロナ禍を機に、大きく外出が減少し、その後回復している。行動先の回復傾向は活動によって差があり、買物や散歩・休憩・子どもとの遊び等の日常的な活動についてはほぼコロナ禍前に戻っていることがわかる。

 また、外食や映画鑑賞・コンサート・スポーツジム等の趣味・娯楽活動については、自宅から離れた中心市街地(まちの中心)における行動が減少し、自宅周辺の活動が拡大したことがわかる。2022年3月になると、中心市街地(まちの中心)における行動も増える兆しがみられるものの、こうした行動については、まだ行動範囲がある程度抑制されているものと考えられる。

1-4 デジタル社会の創造に向けた取組の加速と地域生活圏

(デジタル田園都市国家構想)

 コロナ禍に伴って、ネット利用が広まる中で、政策面ではデジタル化が推進されることとなった。コロナ禍直後から、society5.0に対応したスマートシティや、スーパーシティが推進されてきたが、2021年度に誕生した岸田政権は、取組を一歩進め、デジタルの⼒を活⽤して地⽅の社会課題解決に向けた取組を加速化・深化させる「デジタル田園都市国家構想」を始動させた。

 その後、「地方創生」の取組と合体することとなり、2022年12月には「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に変わる「デジタル田園都市国家構想総合戦略」が公表された。総合戦略では、「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決」に向けて①地方に仕事をつくる、②人の流れをつくる、③結婚、出産、子育ての希望をかなえる、④魅力的な地域をつくるを掲げ、また「デジタル実装の基礎条件整備」に向けて①デジタル基盤の整備、②デジタル人材の育成・確保、③誰一人取り残されないための取組を位置付けている。

 具体的な目標として、2027年度に「地⽅と東京圏との転⼊・転出を均衡させること(2021年度は83,827⼈の転⼊超過)」、「スタートアップや中小企業等の取組の促進・定着・実装が見られる地域を900地域とすること(2022年6月時点で144地域)」、スマートシティの選定数を2025年までに100地域とすること等が掲げられている。

(新しい国土形成計画の検討と「地域生活圏」)

 デジタル田園都市国家構想とともに、国土構造の面で注目されるのは、新しい第三次国土形成計画の策定作業であろう。2022年7月に、国土審議会計画部会から「国土形成計画(全国計画)中間とりまとめ」が公表された。

 中間とりまとめでは、ローカル、グローバル、ネットワークというこれからの国土で重要な3つの視点を踏まえて重点をおくべき方向として、①地域生活圏、②世界唯一の新たな大都市圏(スーパー・メガリージョンの進化)、③令和の産業再配置が打ち出されているが、今後の地域のあり方については、地域の関係者がデジタルを活用して自らデザインする新たな圏域としては掲げられている「地域生活圏」が注目される。

 「地域生活圏」は、①官民の多様な主体が共創して、②デジタルを徹底活用し、③生活者・事業者の利便を最適化しつつ、④横串の発想 という4つの原理で取組を独自に考え行動する範囲と定義され、将来にわたり暮らしに不可欠な諸機能の維持・向上を図ることが目指されている。これは、人口減少が進む中で、デジタルによる課題解決に着目した新しい生活圏の考え方であり、市町村界に捉われずに地域が連携する中で、4つの原理をうまく取り入れることが目指されている。

 地域生活圏の具体的なイメージについて、デジタル活用や人々の行動範囲の広域化などを考慮した1つの目安となる規模として、1時間圏内10 万人前後という規模が示されている。これまでの国土計画では、様々な機能が立地する圏域規模を30万人として約300の圏域で構成するという議論が行われてきたが、圏域規模の目安が10万人となることで、地域によってはより分散型の国土形成が目指されることになる。

1-5 コロナ禍のもとでの状況変化

 以上で紹介した動向やその他の関連情報から、コロナ禍の元での状況変化を再整理すると、以下のようにまとめることができる。