4.「中心市街地活性化2.0」の戦略的展開に向けて

4-1 地域の構想力・実行力の強化

 本稿でみてきたように、コロナ禍を機に地域を取り巻く環境は、大きく変化しつつある。とりわけ東京への集中傾向が大幅に減速し郊外化、地方分散が進行すること、スマートシティ、スーパーシティ構想等に象徴される地域における情報技術が普及、浸透することは、大きな影響を及ぼすと考えられる。

 こうしたなかで、これからのまちづくりに当たっては、多数の地域関係者の参画のもと、まちづくり会社等、特定地区の管理運営団体が市町村とも連携し、地域主導型のまちづくりに取り組むことが重要である。そのため、関連主体の参画のもとで地域の将来ビジョンを明確に設定し、その実現に向けて戦略的に各種の事業を展開する必要がある。

 一方で、これからの中心市街地(まちの中心)が目指すべき方向を示す計画として、既存の中心市街地活性化基本計画は、オフィス立地方策については記載されていない等の点で、十分な指針として機能しない可能性がある。もしこうした懸念がある場合は、地区の管理運営を担うまちづくり会社等の管理運営団体や、市町村が構想力を発揮し、各地域の中心市街地(まちの中心)が今後目指すべき将来像について、改めて検討することが望まれる。

 戦略的な取組の出発点は、まちづくりに向けた地域の課題を「見える化」することだと思われる。課題を「見える化」することによって、できるだけ多数の関係者の意識を喚起し、多数の関係者の参画のもとで、ビジョンづくりに取り組むことが期待される。

 なお、ビジョンの策定に当たっては、ビジョンが絵に描いた餅にならぬよう、取組を事業として具体化し、着実に展開することも重要である。そのため、まちづくり会社等の地区の管理運営主体を確立するとともに、そのもとで市町村等の関係機関とも連携しつつ、具体的な事業のスケジュールと責任者を明確にし、確実なプロジェクトマネジメントのもとで事業を展開する必要がある。

 こうした地域主導型のまちづくりに向けた地域の構想力と実行力の強化に向けて、各地の先行事例等も参考に、まちづくりをリードするキーパーソンの登用や、まちづくり会社等の実行体制と計画的な管理運営を確立することが望まれる。

4-2 地域外とのネットワークの強化・活用

 中心市街地活性化2.0の展開に当たっては、従来にも増して地域外とのネットワークを強化する必要がある。中心市街地(まちの中心)が、地域経済をけん引するまちの拠点としての役割を果たすためには、域外の地域に対してサービスを提供し、地域経済を支える基盤産業や、地区としての求心力強化に資する機能を集積させることが必要なためである。

 そのためには、中心市街地(まちの中心)と広域的な地域との交流を支える基幹的なインフラとして、高速道路、新幹線、空港、港湾といった交通基盤、交通・物流サービスや、高度な情報通信基盤を整備することが重要である。

 また、求心力の強化に当たっては、地域のプロモーションや、地域産品の販売チャネルの構築も重要である。中心市街地(まちの中心)の管理運営を担うまちづくり会社について、地域産品を扱う地域商社機能や、国内外への地域の観光プロモーションを展開する観光地域づくり法人(DMO)としての機能を強化することも有効だと考えられる 。

4-3 アグリゲーターの活用

 「中心市街地活性化2.0」の実現に向けたまちづくりの運営面では、地域における新しいサービスの提供主体として、アグリゲーターの活用を視野に置くことが考えられる。

 先述のとおり、今般、地域が抱える個別の課題に対して、広域的な視点から、決済・ポイントサービス、介護サービス、空き家マッチングサービス、農産品流通等のソリューションを提供するアグリゲーターと呼ばれるサービス提供事業者が登場しつつあり、まちづくりに当たっても、こうした機関が提供するサービスを利用することがひとつの選択肢となってきている。

 まちづくりにおける地域としての主体性は確保しつつも、地域で提供されるサービスの高度化、自らの存立基盤を高めることが可能であるならば、従来の枠にとらわれず、こうした新しいサービスの活用も視野におくことが考えられる。

 地域が自ら高度なサービスを提供できればそれに越したことはないが 、取組の選択肢を広げるという意味で、まちづくり関係者も、多くのアグリゲーターが提供しているようなネットを活用した新たなサービスや、仕組みに対する感度を高めることが望まれる。

4-4 変革のトリガーとなる公共公益施設の整備

 これまで中心市街地(まちの中心)における機能の多くを担ってきた中小商業者及びその組織である商店街振興組合や商店会(以下、中小商業者等)は、1990年代初頭をピークに急速にその力が衰えている。商店街の主たる業種である八百屋、魚屋、肉屋、酒屋は1991年を100とすると2014年は30であり、この23年で70%減少した(商業統計)。

 そのため、中小商業者等は単に買い物の場を提供するのではなく、空間の整備や祭りやイベントの実施等を通じて「暮らしの広場」機能、「地域コミュニティの担い手」そして「都市の顔」を形成してきたが、今やその力は無くなっている。

 これからの中心市街地(まちの中心)の活性化の担い手としては、商業者に限らない事業者や地権者の参画が期待されるが、民間主導で変われる地域は限られる可能性が高い。当分の間、多くの地域では活性化に向けた変革のトリガーとして、行政による“新しい公共公益施設”の導入も有効だと考えられる。それらの先進事例として、長岡の「アオーレ」、富山の「グランドプラザ」、八戸の「はっち」等があげられる。

 今日、人口減少、高齢化が進む中で、ほぼすべての市町村で公共施設等総合管理計画が策定され、公共施設の再編整備が取り組まれている。中心市街地(まちの中心)の活性化に当たり、公共施設の機能再編や再配置が有効なきっかけとなる場合も多いと考えられる。地域のオーガナイザーとしての市町村が、中心市街地(まちの中心)の活性化に向けて自ら実施できる手段として、検討することが望まれる。

4-5 制度運用の見直し

 これまで中心市街地(まちの中心)では、商業機能等、圏域の住民をサービス対象とする非基盤型の産業や、都市型住宅、公共公益施設等の都市機能を対象とする計画が立案されてきた。

 これに対して、本社機能等、外貨の獲得を通じて、地域の稼ぐ力を担う基盤産業の立地促進については、地域再生計画に委ねられてきた。そのため、中心市街地活性化計画や、立地適正化計画は、基盤産業となるオフィス街の整備や広域的な観光機能を含めることができず、自立的で包括的な地域整備の方向性を打ち出すスキームとして機能しにくかった。

 しかしながら、IT関連企業等の誘致や起業促進に向けた取組も、これらの計画と同様、地方自治体が主体となって取り組むことが可能である。地方自治体の工夫次第で一体的な制度運用を行うことも可能なはずである。

 中心市街地活性化2.0が目指す、地域の稼ぐ力を支える業務機能等、まちの中心に立地する産業機能を含み、よりトータルにまちの活性化を担う機能が集積する拠点を実現するためには、当面、こうした柔軟な制度運用が求められる。ビジョンの実現に資する制度運用に当たっては、市町村がまちづくり会社等の地域の管理運営主体との連携のもとでイニシアチブを発揮することが期待される。

 また、中心市街地活性化基本計画、立地適正化計画等における業務機能等の扱いについては、国において検討を行うことが望まれる。