3.まちづくり事例にみる打ち手のヒント

 「中心市街地活性化2.0」の実現に当たっては、様々な取組が必要である。ここではこうした取組をイメージアップし、地域における取組の参考に資するため、まちづくり研究会がこれまで訪問した地域で得た学びをベースに既存事例からみた打ち手のヒントを取りまとめた。

 なお、事例の詳細は、第2部を参照されたい。

3-1 まちの稼ぐ力と集客力の強化に向けて

 まちの稼ぐ力と集客力の強化に取り組む事例として、長野県塩尻市では2009年に設立された塩尻市振興公社によって、都市機能の向上及び地域産業の振興に関する諸事業を行政、民間が連携して推進している。具体的には、東京に立地する企業等からまとまった業務を受注し、時短就労者を対象として仕事を再分配する自営型テレワーク施設「KADO」や、起業家育成を主軸としたシビック・イノベーション拠点「スナバ」が運営されている。もともとは市民を対象とする施設であるが、現在は市外の就業者も対象とする取組に拡大している。「KADO」は、再生されたショッピングセンター「ウィングロード」の上層階に位置しており、商業施設とも連携した機能となっている。

 青森県八戸市では、市民文化に着目し、観光客だけでなく地元の人が何度も訪れたくなる魅力あふれる施設として「はっち」を整備した。アートの街を標榜するモダンな建築・空間の中で、様々なコンテンツを提供し、市民交流の場となっている。また、隣接する老朽化したビルの再開発により整備された「ガーデンテラス」には、東京で活躍するブックコーディネーターが魅力的な空間を提供する「八戸ブックセンター」や、総勢200名を超えるスタッフが勤務し、広告審査・カスタマーサポート・検索サービスの品質評価・Yahoo! JAPANトップページの編集等を担っている「ヤフー八戸センター」が入居している。都市型ホテル等、周辺地区における再開発が進むきっかけともなっていることが注目される。

 また、青森市では、2018年に経営破綻した再開発ビル「AUGA」に、市役所敷地内で建て替えが計画されていた市役所窓口機能を移転した。商工会議所や金融機関も周辺地区に移転し、同施設で就業する昼間人口や、同施設の訪問者の増加等、交流人口の呼び戻しに成功している。周辺には、起業を促進する場として整備された「パサージュ広場」があり、2001年の整備以来、中心市街地(街の中心)へ卒業生が進出する基盤として機能している。

 地方都市においても、中心市街地に民間企業、行政機関のオフィスや起業施設が商業施設等とともに集積しており、中心市街地(まちの中心)を構成する重要な機能となっていることがわかる。

3-2 新しいまちの機能と空間の整備に向けて

 重要性を増す職住近接型のワークスタイルを支える機能と空間について先述の塩尻市の自営型テレワーク施設「KADO」では、オフィススペースに隣接する無料の託児室に子供を預けることが可能であり、働きたい女性を支える場となっている。また、施設が入居している「ウィングロード」が、個性的な建築空間を有する市民交流センター「えんぱーく」と直結しており、2つのビルが一体となって就業、買物、文化活動、交流が可能な拠点を形成している。こうしたミックスドユース(複合利用)の有効性が示唆される。

 また、神奈川県藤沢市に立地する「Fujisawa SST」は、松下電器(現:パナソニック)の工場跡地に開発された次世代型のニュータウンである。太陽光発電装備のスマートハウスや車・自転車のシェアサービス、地域内防犯設備によるセキュリティ、個別配送の一元化による効率化に加え、各種地域内情報のテレビ画面での可視化を通じたコミュニティづくりが行われており、今後のまちの姿を実感させる。カルチャーコンビニエンスクラブが運営する湘南T-SITEが、リアルな交流拠点として機能していることに加え、エネルギー循環を起点に地域内の情報交流を可視化することで、新たなコミュニティが形成されている点が注目される。

 スマートシティ等の整備が注力され、ITを活用した新しい機能や空間整備が進められる一方で、「サードプレイス」の形成の観点から、各地でレトロなストックを活かすことによる魅力的な都市空間整備が取り組まれていることにも注目したい。新潟県新潟市では、「沼垂テラス商店街」が「古くて新しいまち」をコンセプトとして約200mの青果物卸売市場を再開発し、独特な魅力ある界隈づくりを実現している。また、東京都青梅市では、まちづくり会社が独自の空店舗調査を踏まえて、空店舗、空家のマッチング機能を担う「アキテンポ不動産」「アキヤ不動産」を運営している。起業家を育てるマルシェの取組とも連携し、新規出店の場としての空き店舗活用等、ストックを活かしたまちづくりに寄与している。

3-3 新しいまちづくりスキームの確立に向けて

 広域的に展開するサービス提供事業者と連携した新しいまちづくりのスキーム例として、東京都板橋区のハッピーロード大山商店街では、商店街100%出資の子会社を設立し、不動産の売買・賃貸・仲介及び空家活用事業を展開する企業と連携することによって、起業の場となるシェアキッチンを実現している。この他にもアプリを活用したポイントカードの導入や、広告宣伝事業、新電力事業等、新しい切り口の事業に積極的に取り組んでいる。

 また、取組の起点として、幹線道路の延伸によりほぼ真ん中で斜めに分断され、全長の3分の1(約180m)が剥ぎ取られる危機に直面する中で、30年後を展望したビジョンを策定し、まちづくり会社の設立、全国的に事業を展開する空家活用事業者との連携等、柔軟な事業スキームを展開している点に注目したい。

 こうした地域の主体的な取組の原点は、コミュニティの形成だと考えられる。東京都江東区の「深川ヒトトナリ」は、まちづくりに関心のある中小事業者・個人が連携して実行委員会を組織し、まち歩きツアー、体験イベント、まち歩きマップの配布等を通じて、まちの活性化を実現している。コミュニティベースの取組の重要性を再認識させられる。